東京高等裁判所 昭和31年(う)1348号 判決
被告人 横山末広
〔抄 録〕
原判決が認定した証拠によると、電気通信研究所(以下単に通研と略称する)会計課長であつた被告人は、昭和二四年一二月初頃富尾木みよの斡旋により日本建材工業株式会社から通研の宿舎に使用する畳上敷二、六〇〇枚余を代金八九八、〇一六円で買入れることとし、内金五〇〇、〇〇〇円は支払済であつたところその頃上司である通研所長吉田五郎の渡米が内定し同人から米国旅行の際使用する米国弗の入手方を依頼されたので、富尾木みよをして密かにこれを調達させることとし、これが調達資金を同女に交付するため、同年一二月二七日頃政府預託金中から振出された振出人通研繰替払等出納官吏電気通信事務官池田正介、受取人日本建材工業株式会社なる金額八九八、〇一六円の小切手一通を当時被告人が業務上保管していたので、これを内金五〇〇、〇〇〇円は米国弗購入資金、内金三九八、〇一六円は畳上敷代金残額の支払資金として富尾木みよに交付したものであることが認められるのである。所論の原審証人富尾木みよの原審公判廷における供述、被告人の原審公判廷における供述被告人の昭和三〇年四月九日附上申書の記載中、所論指摘の部分はいずれも原裁判所が判示第一事実の認定に引用する被告人の司法警察員竝びに検察官に対する各供述調書中の供述記載に徴し措信しなかつたものと認められるし、その他被告人が単に所論のように畳上敷代金の支払として右金額八九八、〇一六円の小切手一通を富尾木みよに交付したものと認めるに足る証拠はない。そして被告人が政府預託金中から振出された金額八九八、〇一六円の小切手をその内金五〇〇、〇〇〇円は不法に入手する米国弗購入資金として富尾木みよに交付したのは、自己の業務上保管する右小切手について権利者を排除し、ほしいままにこれを処分したものに外ならないのであるから、これを不法に領得したものというべきであり、たとえこの小切手金の内金三九八、〇一六円は通研の支払うべき畳上敷残代金の支払資金であつたとしても、この小切手は不可分の一通の小切手であるので、その交付は違法のものとなり、被告人はその小切手を横領したものといわねばならないのである。右小切手が所論のように畳上敷代金の支払のため書類上成規の手続を経て振出されたものであるとしても、このことは被告人の右業務上横領罪の成立に影響を及ぼすものということはできない。次の原判決が判示第二の事実認定に引用した証拠によると、被告人が富尾木みよに昭和二四年一一月一〇日頃ホテル敷地購入資金として交付した金額四〇〇〇、〇〇〇円の小切手一通、昭和二五年三月二八日頃ホテル建設資金として交付した金額一、〇〇〇、〇〇〇円の小切手一通はいずれも被告人が通研会計課長として所要資金操作の便宜上、通研に納品し又は通研のため請負工事等をした出入り業者に対し支払うべき政府預託金を納品未了又は請負工事未完成等の事由により支払を保留し一時被告人個人名義で大阪銀行五反田支店に預入れ業務上保管していた預金から、ほしいままに振出されたものであることを認めることができるのである。所論の原審証人榊原誠治の原審公判廷における供述、被告人の原審公判廷における供述によれば、被告人が右のように業者に支払うべき政府預託金を大阪銀行五反田支店に自己名義で預入れについては、業者から請求書、領収書等の書面を徴し一応成規の手続を経た形式を採つた上被告人名義の銀行預金口座に預入れられていることを認めることができるが、業者に対し納品又は請負工事等の完成前にその代金を前払する約定の存したことは記録上これを認めるべき証拠はないのであるから、業者としては納品又は請負工事等の完成前通研に対し代金債権を取得すべきいわれはなく、従つて被告人が大阪銀行五反田支店に預入れた預金は政府預託金を銀行預金に振替えたものであり、被告人は通研のためこれを業務上保管していたものと認められ、所論のように通研から業者に対し支払済の代金を業者のために保管していたものとは認められないのである。又原判決が判示第三の事実認定に引用した証拠によれば、被告人は昭和二六年一〇月初頃通研会計課経理担当主査吉田栄三、用度担当主査北爪英治等に指示して政府預託金中から沖電気工業株式会社に対し納品完了後支払うべき小切手として振出人通研繰替払等出納官吏吉田栄三、支払人千代田銀行吉祥寺支店なる金額二九五、〇〇〇円の小切手一通を振出させこれを業務上保管中部下である通研会計課職員榊原誠治同新垣隆雄の刑事事件の弁護料等に充てるためこれを領得する意図の下に、同年一〇月六日頃鈴木四郎に対し、右刑事事件につき弁護士花村四郎に交付すべき弁護料等としてこれを交付したものであることを認めることができるのであるから、被告人は右金額二九五、〇〇〇円の小切手一通を不法に領得したものに外ならないのであつて、右吉田栄三、北爪英治等が被告人の指示により右小切手振出に関与した事実があるとしても、もとよりこれによつて被告人に右小切手横領の意思を否定しなければならないものではない。所論の原審証人北爪英治、同内山充の原審公判廷における各供述、吉田栄三の答申書(原判決に吉田英三の答申書とあるは吉田栄三の答申書の誤記と認める)記載の供述は所論の事由により措信し難いものとは認められないのである、しからば原判決の事実誤認を主張する論旨はいずれも理由がない。
(加納 吉田作 山岸)